自由研究・2

「月」(書きかけです)


1999/09/15-2011/09/28
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「月」の源
 漢字の中の構成部分として現われる「月」には起源を異にする複数のものが混じっている。渡辺 茂は「漢字と図形」[B-1]に「康熙字典によると、月の書き方は五通りあるという」(pp.207-208)と書いている。その5つの分類は以下の通り。解説は私が改編し、旧字体での活字の構成をつけてある。

  1. 「明」の「月」。天体の月。2つの横線(第3画・第4画)を左方で第1画につけ、右方で第2画から離す。
  2. 「青」の「月」。旧字体では「円」と書き「丹」のことであると言う。
  3. 「胃」の「月」。「肉」を表わし、2つの横線は左右ともつける。
  4. 「冑」の下部。「冂」の中に横線を2本引いたもので、横線は左右とも離す。
  5. 「朝」の「月」。「朝」では船を表わす。横線は旧字体では点々であった。

 「月」を起源とするもの(有朋肭朝謄)、「肉」を起源とするもの(肚肚肢背育)、「冂」を起源とするもの(冑)である。特に「胄(あとつぎ、胄裔チュウエイのチュウ)」(区点:7084、シフトJIS:E3F2、JIS:6674)と「冑(かぶと、甲冑カッチュウのチュウ)」(区点:4941、シフトJIS:9968、JIS:5149)は紛らわしい。小池和夫[A-101]によれば「ちなみに白川静氏は「同字異訓」と断定しておられます」との事であるが...
 さらに「崩」、「望」の月は斜めに書くのが標準であった。「望」の月は実は月ではなく、カタカナの「タ」を二点にしたものあるいは「ノツ」(「将」の旁の上半分)のようなものという説も見られる。

新しい「月」
 現在通用している明朝体では、全ての起源の 「月」の横棒を左右の縦画に付けてデザインしている。これは当用漢字字体表による処理である。

にすい
 部首の「にすい」にも2つの起源がある。大部分のにすいは「ン」の様な形をした「ヒョウ」という字が偏になったもので、「凍る」とか「冷たい」という意味を表わす。ところが「次」のにすいは数字の「二」である。従って、「次」のつく文字では皆「次」の左半は「二」となり、旧字体ではデザインが違った。ただし、「盗」は旧字では「さんずい」なので、別扱で普通のにすいとなる。また、「况」は、「ここに」という意味でやはり「二」が偏となる文字であるが、「JIS漢字字典」によればこれは「況(いわんや)」の俗字の「にすい」の文字を意図しているらしい。音は同じく「キョウ」である。

「かき」と「こけら」
 「柿落し」でコケラオトシと読むのだと言われることがよくある。 「かき」と「こけら」は全く異なる字で、「かき」の旁は「市」(シ・いち)、「こけら」の旁は「巾」の上に「一」を足した形である。つまり、「かき」では旁の上に飛び出しているのは「ナベブタ」の点であるが、「こけら」では上下を貫く縦画である。

漢字のunification
 異なる漢字を統合すること(unification)は、高次の政治判断(?)を要する問題であり、ここでは触れないこととする。「胄」と「冑」に別の文字コードが振られようが、「かき」と「こけら」に同じ文字コードが振られようが、それはそれで受け入れることとする。問題としたいのは異なる文字の似た部首の統合である。これに関しては私は統合の必要を認めない。書き文字では統合して良いと思うが、活字では統合しなくても良い(良かった)のではないだろうか。ただし、文字に対する大らかさが復活しないとだめ。「梅」

明朝書体のバリエーション
 GT明朝。筆記体とは別の書体。近づけるのはデザインの試みとしては面白いが、必然性はない。


参考文献


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